サンタさんが我が家には来ない(クリスマスのバカ野郎)
この季節になると思い出す事がある。
その昔、まだ幼児だった頃、保育園での話題は、「今年のサンタさんからのプレゼントは何だろう。」だった。
その頃は、素直なエンゼルのようなハートのお子様だったので、クリスマスソングのレコードを聞きながら、「良い子に早くおねんねしていたらサンタさんがプレゼントを運んでくるよ。」みたいな歌詞を鵜呑みにしていた。
だから、きっと今年こそクリスマスの朝にプレゼントを受け取る事ができるんだと期待して数年。
5歳のクリスマスイブの事だ。我が家には今年もサンタさんは来なかったようだ。
朝、保育園に行くと、男女問わずプレゼントの話題で持ち切りだ。
「ライダー変身ベルトをもらった!」とか、
「リカちゃんハウスをもらった!」
「欲しかった服をもらった!」
だのみんなとても幸せそう。
先生も、嬉しそうな園児の顔を見て幸せそう。
ある女の子が、私に近づいてきて、
「ねぇ、サンタさんからどんなプレゼントもらったの?私はリボンの髪飾りとふわふわのセーターもらったの!」
私は
「何ももらえなかった。今まで一度もクリスマスプレゼントはもらった事ない。」
と言うと、凄く不憫そうな表情で、
「えっ!一度もないの?ちゃんとサンタさんにお願いしてる?こどもにはサンタさんがプレゼントを運んでくれるはずなのに、かわいそう・・・。」
それを聞いて、(何!?普通サンタさんからプレゼントってもらえるものなのか?それとも私はサンタさんから見落とされた未確認なこどもなのか?)と混乱しながらも、平静を装い「プレゼントもらえて良かったね。」とだけ言った。
家に帰って、炊事中の母に聞いてみた。
「ねぇ、うちには何でサンタさん来んと?毎晩サンタさんに来てくれるようにお願いしよるとに。」
母は忙しいのか無言だった。私は続けて、
「保育園行ったら、みんな何かしらプレゼントもらったって言いよらしたよ。うちには煙突が無いけんサンタさん家に入って来られんとやろうか?」
すると母がこう言い放った。
「あのね、サンタさんはどんな子にプレゼント持ってくるって歌に歌いよる?
良い子にって歌いよろうもん。あんた自分の事よう考えてみて。良い子ね?どうね?」
ぐうの音も出なかった。
しかし、優等生の兄もクリスマスプレゼントをもらったことがないと言っていた。
それを母に指摘すると、
「ああ、もう、面倒くさかね! もう時期わかる事だけん教えとく。サンタさんなんか居らんと!わかった?」
5歳の冬に初めて知った衝撃の真実を他の子どもたちにも教えなければと思い、翌日保育園に着いた早々みんなに「みんな、騙されたらいかん、サンタは居ないんだよ!」といいふらした。
「嘘だ・・・。」と半べそをかく子も現れ、でたらめ言うなと掴み掛る子もいた。ちょっとした騒ぎになり、先生が飛んできて訳を知ると、私を取り押さえ、
「黙りなさい。」と押し殺すような声で言った。
先生の深刻な眼差しと、教室の小窓の外の廊下で待機するサンタコスプレの園長と思しき人が見えた。
そう。この日は保育園のクリスマスイベント。毎年サンタさんが来て園児にお菓子の入った袋をプレゼントしてくれる日だ。
イベント前に折角のウキウキたのしいクリスマスムードをぶち壊した私は自分がしでかした事ながらイベントのあいだ、針のむしろだった。
こんな悪い子にも園長サンタはお菓子をくれたのが嬉しかったが申し訳なかった。
サンタ云々は関係なく、この日は「本当にいい子にならなきゃどうにもならない。」
と心から考えさせられた日だった。
未だにクリスマスが近づくと憂鬱になる。