おもい出したこと diary

日々の出来事を記録する日記

先生たちと鬼ごっこをした思い出

 その日は晴れていたけれども、少し肌寒く感じる日だった。
プール開きから2回目の水泳の授業。全く気のりしなかった。

小学1年の私は、授業に出る義務とプールに入りたくない自分の気持ちを天秤にかけてみた。
答えはすぐに出た。「プールなんか誰が入るか!」

そう決意したら、「どうしよう・・・私、水着忘れてきちゃった。先生に言ったら叱られちゃう、怖い・・・。」
「おれ、先生のプールの授業怖いから嫌だなぁ。」
という声が聞こえてきた。

私はその子らに、一緒に水泳の授業に出ないことにしようと持ちかけた。
皆が着替えに必死になっているのを尻目に3人でそっと教室を抜け出した。

 

 もう水泳の授業は始まっているはずなのに、私達を探しに来る先生も生徒もいなかった。
きっと気づかれていないんだ。このまま授業をサボれる!と始めは3人で喜んでいたが、あまりに騒ぎにならないのでだんだん不安になり、プールの様子をそっと見に行くことにした。

 

 3人で、忍びの者のように建物伝いにならんでじりじりとプールに近づいた。プールを囲うフェンスまでの高さは、私達の額の位置にあるので、中腰になって側に行った。
水しぶきの音と、同級生たちの甲高い声が聞こえる。
そっと覗くと、ヒステリーの担任と、教頭先生と、あと1人男性の若い先生が深刻そうな表情で何か話し合っているのが見えた。
きっと、いなくなった私達の件を話し合っているに違いない事は、3人とも瞬時に悟った。
日差しは暑いのに、サッと吹いてきた風が冷や汗を撫でゾクッとした。

 

 3人で顔を見合わせ、「固まっていると見つかってしまう、これからはバラバラになって逃げよう。」と小声で打ち合わせた後はそれぞれプールから遠ざかった。
私もここからすぐに離れなければと思った瞬間、走って逃げる水着を忘れた少女が男の先生に見つかり、一生懸命に逃げ惑う子ウサギのような少女にチーターの如く追いつき捕まえた。
「1人みつかりましたー。」と叫ぶ先生の腕にがっしりと捕えられ、悲しみの表情の少女。静かに手を引かれプールに居る担任の元へ連行されて行った。

私は一部始終をプールの囲いと隣接する倉庫の隙間から見ていた。
捕まった少女は、担任からヒステリックになぜ居なくなったのか尋問&暴力(平手打ちのような音が聞こえてきた)を受けて泣いていた。

 

 怖くなり、その場から動けない。ひたすら見つからないようにプールの囲いの壁にゲジゲジのようにへばり付くしかなかった。

その後、教頭と若い男性教諭が学校中駆けずり回り、私とあと1人の少年の行方を追っていた。

数分後、ぐずりまくる少年が男性教諭に腕を掴まれ、教頭が少年の頭を叩きながら引きずってプールへ連行されるのを見た。

「や・ば・い・・・。」
最初に捕まった少女以上にヒステリックに怒鳴り散らされる少年。しゃくり上げて泣く声を聞き、「地獄のようだ・・・。」と思い、先生たちがそっちに気を取られている隙に私はそっとプールから遠ざかり、グラウンドの周囲の草むらに隠れた溝の中にしゃがんでじっと隠れていた。

 

 教頭と男性教諭の探す声と足音は近づいたり遠ざかったりしていたが、私が隠れている所には来なかった。

そのうち、授業終了のチャイムが鳴った。
「乗り切った、全て終わった・・・。」

 

 私は何食わぬ顔で教室に戻った。
髪を濡らした同級生が次々と教室に帰って来て、「あんた、どこに行ってたの?先生心配してたよ。」と口々に言ってくれた。
後で一緒に逃げた2人も教室に帰ってきた。腫れぼったい目で一言「この裏切り者!」と吐き捨て自分の席に着いた。

 

 ヒステリー担任が何事も無かったかのように教室に入り、次の授業をし終わったあと私に、「この後すぐにあなたは職員室に来なさい。」
と告げた。

 

 絶対に叱られることはわかっていたので、職員室に行く気なんてなかった。
だからそのまま教室にいたら、担任が般若の形相で「来なさいって言ったでしょう!!」と怒鳴って教室に入ってきた。
 捕まったら生きたまま喰われると思って、ベランダ伝いにとなりの教室に行き、廊下に出て走って逃げた。後ろからヒステリックに怒鳴りながらドタドタと鈍い足音で追いかけてくる担任。
「その子を捕まえてー。」と叫ぶ担任の目の前に立ちはだかる上級生の男の子。その子に私は捕えられ、担任に引き渡されてしまった。

 

 その後の事はよく憶えていない。何となく知恵遅れ(今は禁止用語)とか、恥さらしとか、私の昇進がとか聞こえた気がした。
一通り怒鳴られ、殴られた後解放され、無事喰われず生還できて良かったが、一緒に逃げた2人からはその後口をきいてはもらえなかった。

 

 当時は逃げ惑うことに一生懸命だったが、今、大人になり先生の立場で考えたら、生徒が3人も失踪するなんて気が気じゃない。

今頃だけど、「先生、ごめんねー。」